最初で最後の嘘



 鬱陶しいなんて思ったりすることは一度もなく、俺の袖を掴む瑞希の手を外して、手を繋いでやると、本当にキラキラと目を輝かして笑うのだ。


 その姿が俺は大好きだった。


 だから、たまに意地悪して瑞希から隠れると、わんわん泣いて俺の名前を呼び続けた。


 それで、俺を見つけると泣きながら抱きついてきて、その頭を撫でてやると、やっぱりにこにこ笑った。


 彼女が俺を頼りにしてくれることが、傍にいてくれることが幸せだった。


 ずっとずっとこの瞬間が続けば良いと願うくらい大好きだった。















 ただ、その願いも小学校に入ると同時に終わる。


 奏兄の一言だった。


 彼女の極度の人見知りを親たちはもちろん奏兄も心配していて。



「瑞希、歩がいつでも傍にいてくれるわけじゃない、色んな子と話して、お友達を作る努力をしてみよう」



 奏兄は瑞希の頭を優しく撫でた。


 俺はその言葉聞いて、衝撃を受けた。


 自分の幸せが奏兄に奪われてしまうと思った。



「俺がいつでもそばにいる!!瑞希のそばにいてやる!!」



 俺は必死に自分の幸せを守ろうとした。


 瑞希は俺に依存していた。


 でも、それ以上に俺は瑞希に依存していたのだ。


 瑞希が別の世界を持つことなど許せるはずもなかった。


 そして、違う世界を見せようとする奏兄を許せるはずもなかった。



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