最初で最後の嘘
あの時間をもう一度
それから数ヵ月過ぎたが、俺は丹羽の忠告を無視して伊織と付き合っている。
浮気はやめた。
他の女でも伊織でも変わりないのなら、わざわざ波乱を招く必要がないことに気付いたから。
プラスして、伊織への罪悪感がなくなってしまったから。
不眠による思考の低下は歴然としていた。
おぞましい想像で支配されている俺の頭は夢の中でさえ俺を苦しめる。
「佐伯さん。今日は帰ってくれないかい?僕は歩と二人で話をしたい」
ドアを開けた伊織に、のっけからそんなことを言う丹羽に彼女は驚きもしなかった。
丹羽の気まぐれの訪問はいつものことだから。
「じゃあね」
カバンを持ち、あっさりと帰っていく伊織を見送った丹羽が俺のベッドに身を投げた。
一応手土産にビールを持ってきたのはありがたい。