最初で最後の嘘






「あゆむくん!大好き」



 ふわふわ漂っていた俺は突如、重力に従い落下する。


 けれど、痛くない。


 夢だから。


 そこには幼い瑞希と俺がいた。


 俺の手をぎゅっと握って笑う瑞希に俺も笑う。


 瑞希の幼い笑顔は記憶のままで、でも夢の中ではより鮮明で懐かしい感情が込み上げる。




瑞希の頭を撫でる俺に目を移すと、嘘偽りなく笑っている。


幸せそうだ。


いや、幸せだった。


確かに、幸せだった。


その言葉を噛み締めるように、一端、目を閉じて再び開けると、小学の俺たち。



「時田君はずっと私の傍にいてね」



約束だよ、瑞希は小指を突き出す。



「当たり前だろ」



絡めた小指の切なさと甘い香りが思い出とともに押し寄せる。


どうして忘れていたんだろう?


真剣な目をした瑞希に俺は苦笑いして。


それでも、しっかり小指を絡ませて。



「大好き」



目を潤ませた瑞希の涙を拭って抱き寄せた。


絹のような髪を何度も撫でた。


何度も。


当たり前だったけど特別な時間。


そう、そして覚えている。


あの時、俺は寝ている瑞希に。


そっと頬にキスをした。


唇に口付けしようとしたけど、何だか申し訳なく思えて。


それでも、頬にキスしたことに、俺はドキドキしていた。


あの胸の高鳴りが甦る。


初な小学生の俺に苦笑いしつつ、羨ましくて妬ましさを感じた。


あの頃の自分のまっすぐさと幸せに。


瑞希の笑顔は変わらない。


俺は変わってしまった。


まっすぐさも、立ち向かう勇気も忘れてしまった。




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