最初で最後の嘘



 それでも、瑞希のことが好きで。


 誰にも渡せない。


 奏兄のものになるなら、俺は…………


 目をぎゅっと、瞑ると柔らかで温かい感触を唇に感じた。


 驚いて目を開けると、瑞希の頬にキスをしている小さな俺。


 あんなに慌てていながら、幸せな顔して、自分のことを微笑ましく振り返る日が来るなんて。


 そう思ったと同時に、ふわふわとした感覚から浮上する。


 そして、現実へ。


 目を開けると、そこは俺のアパート。


 強烈な倦怠感に襲われて、ため息さえ吐く気にはなれなかった。


 飲み過ぎだろうか。


 それとも夢の心地良さからの落差だろうか。


 眠りにつけるはずもなく、そっと部屋のドアを開ける。


 その時、防衛本能を忘れた犬のように大の字で寝ている丹羽に少し笑うことができたのはどうしてだろう?


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