最初で最後の嘘
「歩。いつまでも傍にいてやることはできないんだ。瑞希のお友達作りに協力してやってな」
「俺はそばにいる!!ずっと」
「瑞希。怖がってるだけじゃ、だめなんだ。瑞希は優しいから、優しいお友達がたくさんできるよ。な?勇気を出して」
瑞希は奏兄の微笑みに戸惑って、俺を見た。
そう、俺がずっと瑞希の隣にいる。
だから。
俺は彼女の袖を掴んだ。
いつもは彼女が掴むはずなのに。
すると、彼女の腕が俺へと伸ばされた。
それが嬉しくて、幸せで。
でも、彼女の手が俺の袖を掴むことはなかった、奏兄がその手を掴んだのだ。
「瑞希」
奏兄の真剣な眼差しを呆然と見ている俺をよそに、瑞希は奏兄を見て頷いた。
「がんばる」
そう、こっくり頷いた。
疎外感。
あまりに耐え難い気持ちが渦巻いて、いつの間にか瑞希の袖から手が離れていたことさえ気付かなかった。
けれど、その疎外感や空虚感はその時だけのものだった。
瑞希は最初は怯えていたけど、持ち前の笑顔と明るさで友人を作ると、あっという間に溶け込んだ。
そんな瑞希の笑顔に安心していたし、俺たちの仲が新しい友人によって崩されることもなかった。