最初で最後の嘘
俺が起き上がろうとしたのを察した丹羽は背中を支える。
「痛い。もっと丁寧に扱え」
「丁寧さ。背中は折れてないのだから、かすり傷だと思えば、どうってことない」
こいつは相当なるヤブ医者だ。
5階から落ちてかすり傷だと思えるか。
「歩、お前……」
低い親父の声に耳を傾けた時、パタパタと足音がドアの前で止まった。
「瑞希です。開けて大丈夫ですか!?」
「瑞希ちゃん!?」
親父がドアを開けると息を切らした瑞希。
呼吸を忘れてしまった俺の目に、瑞希が映った。
最後に見た泣いている瑞希とまったく同じ表情で。
俺への心配だけを映している、その瞳に夢の続きを見ている感覚に襲われる。