最初で最後の嘘




 突き飛ばされた彼女は、棚に叩きつけられ。


 その衝撃で棚に置かれていた水差しとグラスが彼女の頭上へ。


 スローモーションのように、はっきりと俺の目に映る。


 グラスは割れ、水が瑞希の頭から滴り落ちる。


 赤い血とともに。




「み、瑞希ちゃん!大丈夫!?」



「歩。お前っ……」



 殴りかかろうとする親父の腕を丹羽は掴んだ。



「お気持ちわかりますが、彼は怪我人です。暴力はマズいでしょう」



 瑞希は俺だけを茫然と見ていた。


 いつかのように。


 あの時のように。


 水を被っているのに、血を流しているのにそんなことさえ気付かずに。


 ただ、泣いていなかった。


 ただ、まっすぐに俺を見ているだけ。



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