最初で最後の嘘
「瑞希さん。歩は異常なんです。今は近付かないほうが良い。佐伯さん、瑞希さんのこと頼んで平気かい?ご両親は歩の手続きとかあるだろうし」
1人だけ、この事態に動転していない。
いや、俺が異常者だと言ったのは丹羽だ。
これくらい異常者なら当然と言ったところか。
誰も丹羽の意見に逆らうものはいなかった。
丹羽も含め、俺のことを皆が異様な目で見る。
いや、皆がそう見てくれたなら苦しみは幾分違っていたのだろうか?
「あゆ、む、く、ん。ごめんなさい」
耳を掠めた、愛しい声に拳を握りしめた。
瑞希はどうしてこんな俺に優しいままなのだろう?
その理由が俺と同じ思いだったのなら、俺はこんな異常者にならなかっただろう。