最初で最後の嘘
「うむ。君の悩みを理解できたよ。なるほどね、恋っていうやつは、歩でさえ狂わせるんだね。いや、歩だからかな。君は情熱的だからね」
「黙れ」
「君は昨夜、瑞希さんの名前をうわ言のように繰り返していた。夢でも見ていたのかい?それで自暴自棄になって飛び降りたとか?」
「ちょっと、丹羽さん……」
「瑞希さんは元カノ?いや、君の片想いのほうがしっくり来るな。ずっと忘れずに想いを募らせて、彼女には彼氏がいて」
「……黙れ」
俺は丹羽の首に手をかけたが、あっさりその手を取られる。
「憎いほど好きなんだね。彼女のことが。認めてしまえよ。本当は抱きしめたかった、と」
「……丹羽さん。歩と瑞希ちゃんは幼馴染なんですよ。それにもう10年も疎遠で……」
お袋のひき吊り笑いに、丹羽は呆れたように肩を竦めた。