最初で最後の嘘
変わる変わる
そうしているうちに奏兄は小学を卒業し、その頃になると俺たちは男女の区別が意識されるお年頃なわけだ。
俺は瑞希のことを『吉川』と呼ぶようになったし。
瑞希は俺のことを『歩くん』から『時田君』と呼ぶようになっていた。
お互いに自然に違和感なく。
でも、それを俺はほんの少し寂しく感じていた。
その寂しさを埋め合わせたのは、放課後の時間だ。
放課後にお互いの友人と遊ぶことはあっても、必ず週1回はどちらかの部屋で過ごしていた。
話すこともあれば、お互い別々のことをやることもある。
同じ時間を空間を共有することが幸せだった。
学校では話せなくても、しっかり繋がっていて瑞希の笑顔をそばで見ていられる。
だから寂しくても幸せだった。
そんな幸せに変化が起きたのは、小学5年の春先のこと。
いつものように、二人で過ごす空間。
本を読んでいる俺に瑞希は近づいてきて俺の耳へ唇を寄せる。
いつからだろう?
内緒話をするたびに、こうドキドキしていたのは。
吐息が耳に触れることにおかしいくらいにドキドキしていた。
そう、この瞬間もドキドキしていた、けれど。