最初で最後の嘘

変わる変わる





 そうしているうちに奏兄は小学を卒業し、その頃になると俺たちは男女の区別が意識されるお年頃なわけだ。


 俺は瑞希のことを『吉川』と呼ぶようになったし。


 瑞希は俺のことを『歩くん』から『時田君』と呼ぶようになっていた。


 お互いに自然に違和感なく。


 でも、それを俺はほんの少し寂しく感じていた。


 その寂しさを埋め合わせたのは、放課後の時間だ。


 放課後にお互いの友人と遊ぶことはあっても、必ず週1回はどちらかの部屋で過ごしていた。


 話すこともあれば、お互い別々のことをやることもある。


 同じ時間を空間を共有することが幸せだった。


 学校では話せなくても、しっかり繋がっていて瑞希の笑顔をそばで見ていられる。


 だから寂しくても幸せだった。


 そんな幸せに変化が起きたのは、小学5年の春先のこと。


 いつものように、二人で過ごす空間。


 本を読んでいる俺に瑞希は近づいてきて俺の耳へ唇を寄せる。


 いつからだろう?


 内緒話をするたびに、こうドキドキしていたのは。


 吐息が耳に触れることにおかしいくらいにドキドキしていた。


 そう、この瞬間もドキドキしていた、けれど。



< 7 / 115 >

この作品をシェア

pagetop