最初で最後の嘘
「で、私はそのカモフラージュらしいわよ?」
察しが良い伊織だ。
瑞希のことなんかお見通しだろう。
今日のこれからのことだって予想済み。
性格上、伊織から切り出すと思っていたが。
普段と変わらずの様子。
この会話を予兆と捉えるのは俺の期待のし過ぎだろうか。
雑談は結構、本題に入って決着をつけないと。
こんなところで、足踏みしている暇はない。
りんごを差し出す伊織の後頭部を支えて、抱き寄せる。
右手だけは不自由なく使えるのはありがたい。
これは賭けだ。
そのまま唇を重ねようとゆっくり顔を近付けると伊織は目を閉じた。
俺の都合の良い予想だったらしい。
伊織から手を離した。