最初で最後の嘘


















「……拒まないとは意外だった」



「歩の期待通りに動くのは癪でね」



 佐伯伊織という女は最高の女だ。


 俺は口の端を上げた。



「なるほど。お前のことを好きになっていれば、何の問題も起きなかったのにな」



 単調な白黒の世界の中で、感情を揺さぶられない関係が恋だと思えていれば。



「……それは、私を、好きだと思ったことは一度もない、ってこと?」



 意外と言えば意外。


 伊織にも普通の女としての感情があったのか。


 石ころのように溢れている、普通の女とは違うと思っていたら。


 常に気高く美しく整った顔が歪んだのを見て、何だか残念な気分だ。




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