最初で最後の嘘
「攫って歩を愛するように仕向ける気かい?」
「憎まれることは覚悟している」
「だろうね。だけど、君は瑞希さんを無理やり連れ去るなんてできない」
丹羽は人差し指で眉間を押さえた。
「……かもしれない、と思っているんだ。確信ではなく可能性としてあると僕は言いたいんだ」
「可能性ね。お前は俺がそれなら何をやらかすと思ってるんだ?」
「もちろん、計画通り花盗人をやる確率が一番高い。理性的ならば」
理性的なんて、滑稽極まりなく思わず苦笑いしてしまう。
「他の可能性としては、幸せそうな瑞希さんの姿を見て、諦めてしまう。で、やけ酒に溺れて、またはた迷惑な飛び降りをする」
「はた迷惑で悪かったな」
そっけなく謝罪をした俺を丹羽が覗き込む。
これは俺の反応で俺の心の中を見極めようとする時にする動作。