最初で最後の嘘
きっと何も変わらなかった
スーツを着て、会場に現れた俺に両親は疑惑の眼差しを向けた。
「もう、諦めてる。どうにもならないことくらいわかってる」
しおらしく言ってみると、肩を叩かれただけで何も言われなかった。
とりあえずは騙すことには成功したらしい。
暴力はあまり振りたくないが、如何せん誘拐を企てるわけだ。
犠牲はやむ得ない。
体調は万全だし、丹羽にも待機してもらってる。
「海外逃亡も見越して、瑞希さんのパスポートは預かっておいたから」
今朝、顔を合わせた時にパスポートを見せてそんなこと言う丹羽。
驚いたことに、瑞希と仲良くなり、家にお邪魔した際に机の引き出しから拝借したとか。
「預かった?泥棒だろ」
呆れたため息を投げかけると、気分を害したようで口を尖らす丹羽。