最初で最後の嘘
「歩」
ぼんやりと思考を巡らせていた俺に降りかかる優しい声。
天井から正面へ顔を戻すと奏兄が笑って立っていた。
予期せぬ来訪であったが、俺は動じることなかった。
そう、不思議と心穏やかで冷静でいられている。
ただの幼馴染の結婚式に参列しているかのように。
「奏兄か。いいのか、主役がこんなところにいて?」
「花婿なんて脇役だ。それより、お前は身体大丈夫なのか?心配してたんだぞ」
ブランクを感じさせないほど俺たちは普通に会話をしている。
それが不思議だ。
あれほど妬んで恨んでいた奏兄なのに。
でも、それが嵐の前の静けさだとわかっている。
「そのわりに、見舞いには来なかったじゃねぇか」
奏兄の眼差しには幼馴染である俺の身を案じているのは言葉だけではないということ示している。