最初で最後の嘘
「違う。歩、俺が憎いんだろ?お前の目見てたらわかるよ。」
「何、言ってるんだか」
俺は肩をすくめて見せた。
「隠すことない。瑞希を見てきたようにお前のこともずっと見てきた。だから、正直に言ってくれ」
「奏兄を恨んだことなんてないぞ、俺は」
呆れたように肩をすくめて見せると、奏兄は苦笑いをした。
奏兄は笑う時は少し俯く。
それが奏兄の淡く柔らかい雰囲気を際立たせて、瑞希だけでなく俺も見るのが好きだった。
誰よりも大人に見えて憧れた。
憎んでいても、それでも幼い頃に感じた奏兄への憧憬はこびり付いたまま。
瑞希のことが嫌いになれないのと同じで奏兄を憎んでいても完全に嫌いになることなどできない。