僕は二度、君に恋をする
2.コーヒー、砂糖少なめで
僕が初めてマキを認識したのは今から一年前、大学二年の春だった。
その頃僕は同級生のクラリネット吹き・旗野藍の伴奏をしていて、当時から四階に居候していた。
藍ちゃんのレッスンについて行くために、ある日四階の廊下を歩いていたら、マキはそこにいた。
小部屋の扉の細長い窓から見えるマキは裸足で、踊り散らすようにクラリネットを吹いていて、それはそれは強烈な印象だった。
まず世の中の人が「クラリネットを吹く女の子」と聞いて描くイメージからは程遠い。一種の狂気も持った“それ”はしかし、とても魅力的でもあった。
でも本当に驚いたのはそのあと。ある日もまた四階の廊下を歩いていたら、突然角から彼女が出てきて、僕の前に立ちはだかり、
「わたしの伴奏をしてください。」
と厳つい顔で頼んできたのだ。