僕は二度、君に恋をする


 その日は藍ちゃんと合わせの約束で四階に行ったので、その直後藍ちゃんに、何とかマキって人に今おっかない顔で呼び止められてさ〜と事の顛末を話したら、藍ちゃんは楽器を組み立てていた手を止めて、しっとりと言った。


「ジョンさ、この前のおさらい会で、マキちゃんのこと、めっちゃ真剣に見てたよね。」

「え……?」

「無意識だった?すっごい真剣に聞いてた。マキちゃんの方もね、おさらい会の後で、藍先輩の伴奏の人めっちゃうまいですね、なんて方ですかって言うから、わたしがジョンのこと教えたの。」

「藍ちゃんがオレの名前教えたんだ。」

「うん。もしかしたらふたり、合うのかもなーって思って。」


 そう言う藍ちゃんはどことなくさみしげに見えて、僕は浮気をしたような罪悪感に駆られる。

 別に、何人かの伴奏を引き受けることは、違法でも非倫理的でもないのだけれど。


「連絡先だけ交換して、まだ引き受けるとは言っていないんだけどね。僕は今歌の伴奏がない分、クラリネットふたりくらい持てると思うから、藍ちゃんの伴奏も引き続きやらせてほしいな。」


しかしその罪悪感は勘違いだった。


「あのね、今日ちょうど話そうと思っていたんだけれど、わたし、この秋からパリに留学できることになったの。」

フラれたのは僕の方だった。


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