僕は二度、君に恋をする



「恋とはなんたるや〜。」


 本当はレッスンでしか使えない大部屋を、マキはいつも合わせのために、僕の知らない方法で不法に確保する。

 グランドピアノがあるその部屋で、リードをセットするマキを尻目に、僕は即興の鼻歌を歌いながらピアノの蓋を全開にした。


「愛とはなんたるや〜。」

「やめてよ、そんな歌。」


 マキのいつも以上にキツい物言いに、僕の鼻歌は八つ裂きにされた。

 よく見てみれば、目の下のクマが濃い。目も虚ろだった。


「マキ、何かあっただろ……?」


 僕は驚いた。強い女子の象徴として名高いマキが、僕の言葉をきっかけに泣き出したのだから。


「ちょっと、どうしたんだよ。」


 マキはクラリネットを膝に置き、頭を両手でかきむしってから消えそうな声で言った。


「フラれた。」

「は?」

「ミチタカくんにフラれた。」

「え、この前の金曜日もラブラブに密着してデートしてたじゃんか。」

「そのあとだよ。彼、わたしは遊びだったんだよ。本命が他大にいたの……!」


 僕のように彼女のひとりも作れない男がいる一方で、時に何人もを平気で股に掛ける男もいる。


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