僕は二度、君に恋をする
僕はそういう人種が現実に、いや、目の前にいたことの驚きのが優っていた。
「マキ……うそだろ。また先輩の悪い冗談じゃ……?」
「違う。ご飯食べてたら遭遇しちゃったの。本命に。しかも彼、ふっつーに紹介してきて……。」
「なんだそれ……。」
「モテ過ぎて困るから、同じ大学に彼女がいれば、誰も手を出してこないだろうって。だからあたしと付き合ってたって。」
非モテの僕には想像もできない人生のシチュエーションに絶句する。
「ごめん、やっぱり今日合わせ無理だわ。ごめん。」
泣いている顔を見られたくなかったのだろうか。マキは部屋を駆け出ていった。
僕は彼女を止める言葉を、持てなかった。
クラリネットが置きっぱなしだったのでしばらくマキを待ってみたが、1時間ほどたってから、彼女は僕がいるとむしろこの部屋に戻りづらいのではないかと考えを改め、そっと部屋を後にすることにした。
僕は無力さを感じていた。
失礼なことを言えばチャンスだった。でも僕にはあんなに弱った彼女を口説く自信もなければ、それほどずる賢い頭もなかった。だからと言って彼女を慰めることもできない。