僕は二度、君に恋をする
レッスン棟には、小部屋と呼ばれる練習室と大部屋と呼ばれるレッスン室が廊下を隔てて左右に並んでいる。
これが四フロアあって、各楽器ごとに生息域が異なる。
ピアノ科の僕は本来二階にいるはずなのだが、管楽器と一緒に弾くことが多いので日常的に四階の管楽器フロアで居候をしていた。
今日も僕は、カバンと譜面、そして学食の紙コップ自販機のカフェオレを手に、マキの小部屋を訪ねる。
防音扉の細長い窓をのぞくと、いつものように裸足でクラリネットを吹く彼女が見えた。
それはもう自由に。彼女の歌のままに、息が、音が、紡がれる。
「おはよ」
「お、来た」
「まーた靴下脱ぎ散らかして。少しは女らしくしたらどうなんだよ。」
「カフェオレならそこ置いておいて。ありがとー。」
マキは合わせの度に、僕にカフェオレを買わせる。後から請求すれば払ってもらえるのだが、何杯買ったか正確な数を忘れてしまうから、僕はいつも少なめに請求する。たぶんマキは何杯もタダ飲みしている。