僕は二度、君に恋をする



 誰もいないテーブルに掛け、本を出して手足を投げ出したら、眠気に襲われた。

 このまま寝てしまえ、と思ったところで、聴覚がそれを許さない。


「マキちゃんと浅井さん別れたらしいよ。」


 フルート女子とおぼしき麗しい令嬢ふたりが、下世話な話に興じていた。

 僕はピアノ科よりはるかに速い噂の流通スピードに腰を抜かしながら、耳の意識をそちらに凝らした。


「嘘でしょ、うちこの前の日曜日、あのふたりが手を繋いで帰るの見たよ。」

「日曜日でしょ?それで、月曜日に別れたって話。」

「なんでまた。」

「他大に本命いたらしいよ、浅井先輩。」


 噂は何ひとつ間違っていなかったので、僕はピアノ科よりはるかに正確な噂の流通クオリティに恐れ入った。

 こんな好奇の目に晒されていては、たまったもんじゃない。僕は家に引きこもっているであろうマキに同情したくなった。


 つまるところ浅井氏は最低だった。マキは所詮、学内における女除けのためのアクセサリーだったのだから。


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