僕は二度、君に恋をする


 何も、よからぬことは考えていない。

 浅井さんの件はかわいそうだけど、ちゃんとクラリネットは吹けよ、そう言いたいだけ。

 なんだが、そうでも言わないと、あいつが壊れちゃうのではないか、と思うくらいに、あの日は弱っていた。


 待てよ、とエレベーターの中で考える。それなら電話すればよかったんだ。何で僕はここまで来ているんだろう。

 僕にしては珍しく、冷静に考えることができなかったようだ。僕はようやく、自分の本心に気づく。


「まさか来るとは思わなくて……びっくりした。」


 部屋のインターホンを押したら、頭がボサボサの彼女が出てきた。


「合わせ、ごめんなさい。でも、なんで来たの?」

「……会いたかった。」


 一瞬彼女は目を見開いて、でもそののちすぐ、部屋に上がれとジェスチャーした。

「いや、そんなアポもなしに突然上がり込もうなんて気は……。」

「ここまで来て何その覇気の無さ。やっぱり泰彦はヘタレだね。」


 そう、彼女は言った。泰彦、と。

 僕は部屋に入って、扉を閉めた。


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