僕は二度、君に恋をする


 本当はうんと優しくしてやりたかったし、このままプッシュすれば付き合えそうなのは、さすがの僕もわかっていた。

 それでいて僕は、あえて距離を縮めなかった。


 ひとつに、浅井さんの存在を意識していたこと。

 周りからの目も気になったし、男をとっかえひっかえなど、マキに悪い噂が立つのを恐れた。


 もうひとつに、いや、これが最大の理由だが、今付き合ったら全面的に甘えられてしまう。

 そうしたらマキはダメになりそうだと直感的に思った。依存されてしまう。


 彼女には自立した音楽家でいてほしかった。

 だから少なくとも来週の実技試験までは、僕は彼女を精神的に甘えさせないと決めた。


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