僕は二度、君に恋をする


 マキと別れて帰路に着く。家の近くのスーパーでセールになっている食材をカゴに入れながら、やるせない気持ちで足を進める。


 マキに手を出さないのは、マキに彼氏がいるからだ。相手はマキと同じ木管の先輩で、管楽器一のイケメンとの呼び名も高い。

 メガネがジョン・レノンに似ているから、というだけの理由でジョンと呼ばれる僕とは大違いだ。分が悪いにもほどがある。


 彼女ができないんだよ、というセリフも否定できなければ、作らないのはお前のせいだとも言えない。

 自分の覇気の無さにほとほとあきれながら、鍵盤に指を沈める。指にかかるその重みは、煩悩を振り払うのにもってこいだった。


 マキみたいな音を出したい。跳ねるような音、えぐるような音、なでるような音。多彩で主張のある、芯の強い音がほしい。

 ああ僕は彼女の音が好きなのかと思いながら、五線譜と指を一致させていく。少しでも作曲家の近くに。五線を介して、僕はロマン派に思いを馳せる。


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