僕は二度、君に恋をする
しかし、マキがミスをすることだって当然あり得る。でもマキのすごさはそこにあって、どんなミスをしてもそれをミスで終わらせないカバー力がすごい。
指が回らなかった、ブレスの間が悪かった、そんなことになって以降の方がむしろ良かったりもするくらいで、並みの集中力ではないし、失敗で挫けない精神力もあるのだと僕は思う。そして、僕がしくってしまった時も、フォローしてくれる。
とにかく本番に強いやつで、僕を巻き込み、ミスすら巻き込み、会場全部を巻き込むやつだった。聞くものを圧倒させるパワーがあった。
本番でクラリネットを吹くマキは、どこまでも凛としていて、信念は決してブレない。
「マキちゃんね、よかったよ、エネルギッシュだし、この作品の熱いものが客席にもがっつり伝わってきた。」
おさらい会のあとで、マキと僕は先生に講評を聞く。
「ただね、その熱が、何て言うのかなぁ……直線的だったかもね。」
「直線的?」
「そう、若いからかなぁとは思うんだけどね。この作品、そんな一筋縄ではいかないじゃない?
愛だの嫉妬だのを経てさ、ある程度傷つきながら進んでいくと思うんだよね。
今のマキちゃんのだと、あれかなぁ、例えるなら、ちょっと高校生の恋って感じかもね。」
「はぁ。」
年の頃五十は過ぎているであろう、いつもダンディなマキの先生は、茶目っ気たっぷりにウインクをした。
「石河くんと、『大人の愛』に仕上げてきて。」
先生は別の子のところへ話しに行き、あまりわけがわかっていない風のマキと、恋だの愛だのといったワードに過敏になって顔を赤くしている僕が残された。
こればっかりは条件反射だからコントロールできないけれど、僕のウブ加減にもほどがある。