Chat Noir -バイオハザー度Max-
それは、はじめてきく低い声。
おなかの底まで響いてきそうな迫力のある声に、酔っ払いの二人組みは顔を合わせて
「いや、ちょっと道を聞いただけだよ~」と無理やりひきつった笑顔を浮かべて、後ずさるように逃げていった。
「何あれ、高校生?あの子の彼氏?」
「俺の彼女って言ったからそうじゃね?
おおかた“きれーなおねーさんは好きですか”にやられた口じゃね?」
「あの子ホントに俺のタイプだったんだけどなー。しゃーない、きれーなおねーさんを求めにキャバクラでも行くかぁ」
酔っ払い二人組みはひそひそと喋りながら夜の街に消えていった。
なんなんだ。
二人組みの背中を見送って、私は握られている手を見下ろした。
「ごめん……ありがと」
黒猫は手を離すかと思いきや、まだ二人組みが消えていったほうを睨みながら、手をぎゅっと強く握ってきた。
「“きれーなおねーさんは好きですか?”」
ぽつりと呟いて、
「え?」私が聞き返すと、
「好きです。
きれーなおねーさん、好きで悪いかっつうの」
いつの間にか私を見下ろしていた黒猫が真剣に言って、またもきゅっと手を握り締めてくる。
きれーなおねーさん!好き!?とな。
「朝都がいけないんだ」
黒猫はまたちょっと顔を赤くしてぷいと逸らすと、面白く無さそうに唇を尖らせた。
またも私??私何にもしてないわよ?
「そんなきれいなかっこしてくるから…
俺は泥棒ネコどもから飼い主を守るため、気が抜けない」
泥棒ネコ…
さっきの威嚇は縄張り争いみたいなものか。
なんて冷静に考えてる場合じゃないって…
“きれい”??
黒猫にどん引かれていたとばかり思ってたから、凄く嬉しいし。
あぁもう。これから大事な話し合いを控えてるってのに、
これ以上バイハザード変態ウィルスを無駄に増殖させないでくれ。