Chat Noir -バイオハザー度Max-
黒猫は俯いたまま額に手をやり目を伏せている。
「サイテーなんかじゃないよ。
人の脳は記憶を永遠に閉じ込めておくことなんてできないの。
細胞は成長するけれど、同時に劣化するものだから。
新しい記憶ができると古い記憶を忘れちゃうのはどうしようもないんだよ。
だから人は記録を残しておくの。写真だったりビデオだったり。
手紙だっていい。日記でも」
私―――もっともっと黒猫にあったかい言葉を言って慰めてあげたいのに、
やっぱり理屈でしか考えられないカタブツだ。
それでもこんなカタブツでも私は持ってる知識を総動員させて、私なりに
黒猫のことを癒してあげたい。
私は黒猫の後ろからまわした手で黒猫の頭を引き寄せて、ふわふわの黒い髪にキスをした。
かぎなれたお日さまの香り―――
黒猫の髪質は―――きっとお母様に似たんだろうな。
あったかい香り。きっと黒猫のお母様も温かい人だったんだな…
「あんたはお母さんのこと忘れちゃったわけじゃないよ。
その体の中に流れる血は、
倭人の顔や体の一部は、
倭人の性格の一部は
倭人のお母さんの偉大なる遺産だよ。
名前だってそうかもしれない。
『倭人』ってつけてくれたのはお母さんかもしれない。
だから
倭人が生きてること自体が―――
お母さんの思い出そのものなんだよ
倭人の中でお母さんは永遠に生きつづけてるんだよ」
黒猫はピアノ線みたいな長い睫をゆっくりとまばたき、目を上げたときに
睫の先に光る何かを見た。