Chat Noir -バイオハザー度Max-
夢の中で聞いた。
「にゃ~」可愛いネコの鳴き声を。
黒いネコが私の記憶の波、を颯爽とした歩き姿で横切る。
にゃ~…
―――『電話―――…鳴ってるよ』
あれは……いつ頃だったか…
半年ほど…前だったかな。
まだ春先のことだった。春の訪れを報せるように温かい風がふわりと黒猫の部屋のカーテンを揺らして、ついでに黒猫の前髪も揺らしていた。
ウ゛ーウ゛ー…
マナーモードにしたケータイが足元に置いたバッグの中で振動して着信を知らせていた。
『電話』
すぐ隣で数学の問題に取り掛かっていた黒猫がもう一度そっけなく言って、
『知ってる。今勉強中だし』
同じようにそっけなく返した私。
電話の相手は分かっていた。
あのときはまだ元カレと付き合っていて、でもあのときすでに彼氏との終わりを予感していた私。
浮気の弁解なんて聞きたくないし。本気だったら尚更。
しばらくしつこいコール音は響いていたけれど、やがて諦めたのかプツリと途切れた。
『男?』
そっけなく聞かれて、
『それを英語で聞けたら答えてやるわ』
と不機嫌そうに答えた。
いつも私に無関心そうな黒猫が、ちょっと目先のおもちゃ程度に興味を持ったぐらいで答えてやる義理などない。
そう、この頃私は、私に全然懐かないネコを好いてはいなかった。
どうせ聞いてこないと思ってちょっと言ってやると、
『Your boyfriend?
英語の授業じゃないのに』
ペンを握ったまま頬杖をついてこちらを向き無表情に聞いてきた黒猫。
まさか聞いてくるとは思わなかったから私の方が驚きだった。
『Yes』
何とかそう答えると、
『ふーん』
黒猫は急につまらなさそうに再び問題集に取り組んだ。
『This class is so boring.(マジで授業つまんねー)』
黒猫は問題集に向かいながらぽつりと一言。
そう言えば黒猫は数学は苦手だけど、英語は割りと得意な方だった。
黒猫の嫌味な発言に顔をしかめたことを思い出す。
―――…
「にゃ~」
またもネコの鳴き声が聞こえて、
あ
そーいや黒猫が私の視線を逸らすようになったのはこの頃だった。
と今更ながら思い出した。