Chat Noir -バイオハザー度Max-
「さっきの話……“責任”とか言ったの…あれ、気にしないでね。
自分だって高校生のとき彼氏だっていたし、当然ねエ」
溝口おねーさまは苦笑しながらビールを傾ける。
私は何て返せばいいのか分からず曖昧に笑い返した。
「私ね、来年の春に結婚するの」
突然の溝口おねーさまの告白に
「はぁ結婚ですか…おめでたいですね…」なんてのんびり返したが
「ええ!?結婚!」
私はびっくりして隣でタバコを吹かすおねーさまを見た。
今この人、さらっと爆弾発言したような。
「そう、結婚。いい人なのよね~
優しくて、私のこと気遣ってくれて」
聞き間違いじゃなかった…
「何て言うか…マリッジブルーなのかな」
おねーさまはタバコの紫煙を吐き出して僅かに目を伏せる。
「結婚したら仕事辞めてくれ、って彼に言われちゃった。
私…そりゃ今の仕事は大好きってことじゃないけどさ。
地道にがんばってきて、この立ち位置を確保したのよ?
築き上げたもの、私のプライドや歴史、それをあっさり辞めてくれってね。
私の気持ち、まるで無視?」
おねーさまは力なく笑って私を目配せ。
「弟が甲斐性なし、って言ったけど、私もそうかも…
優しいし何もかも包んでくれて養ってくれる、今時珍しいと思うんだけど、なんかねー…
結婚に踏ん切りが付かない、臆病者。
姉弟揃ってね~何やってるんだかって感じよね」
ため息と共に煙を吐き出して、おねーさまは遠くを見ている。
さっき……相手に合わせるだけじゃダメって…あれ、きっと…おねーさまが自分自身に言った言葉なんだ。
「悩んで…って結婚するかしないか、ってことでですか?」
私が聞くとおねーさまは寂しく笑っただけで、
「ここ、冷えるわね。中入ろっか」
おねーさまはそれだけ言うと立ち上がった。