トロンプルイユは甘く囁く
「あっ」

 思わず声が漏れた。
 正面から見ていた分には気付かなかった。
 そこに立って、初めてその絵の真実が見えたのだ。

 自分に向かって手を差し伸べる骸骨。
 見かけは骸骨だが、ぽかりと開いた眼窩には、僅かに光る塗料が使われている。

 涙だ、と思った。
 骸骨は涙を浮かべ、悲しげに、綾に手を差し伸べる。

 朝芳の手を思い出した。
 骸骨の手は、朝芳の手だった。
 この骸骨は、朝芳だ。

 屏風絵は、正面から見るものだ。
 仮に背後に据えることがあっても、隅に描かれた女子のところになど、誰も来ない。
 遠巻きに見るだけだ。

 絵の中の女子にならない限り、決してバレることはない朝芳の本心に、綾は人知れず涙を流すのだった。



*****終わり*****

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