-陰陽之書-

「主人が、わたしを食べに来るのでございます」

 伊助は泣きながら説明をはじめた。

 伊助はここから少し外れた村で、地主の家人として住み込みで働いていた。

 困っている人を見ても素知らぬ顔をする主人は、村では評判が悪い。

 しかもその地主、原因不明の病にかかってしまった。

 地主に雇われていた家人たちは皆、自分も病にかかっては大変だと逃げ出した。

 残ったのは伊助ただひとり。

 しかし、伊助は早くに父を亡くし、病気の母を抱えていた。貧しい身分でも雇ってくれる地主の元を離れることができず、今日もいつものように世話をして過ごしていた。

 するとどうだろう。午前には何ともなかった地主の姿が変化していったのだ。


 夕刻を過ぎた頃になると、伊助はいよいよ不安に思い、夜具の中を見やれば、皮膚は赤黒く変色し、痩せ細った骨ばかりが目立つ身体なのに腹部が丸く膨れ、足の甲が浮腫んでいるではないか。


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