-陰陽之書-

「お呼び立てして申し訳ありません。実は、この寺で少々不可思議な現象が相次いで起きておりまして、しかし、これを大事にするわけにもいかず、こうして貴方様におすがりいたしました」

 そこまで言うと、僧侶は一度口を閉ざし、ふたたび開く。

「実は、この法隆寺に、穴が出没するのでございます」

 僧侶いわく、穴は一週間前から出始めたという。何の前触れもなく突如として現れるその穴は米粒くらいの小さなものから大人ひとり分の大きなものまで大きさは様々で、そうかと思えば、すぐに消え去るのだという。

 決まって丑の刻に出現するため、早くに眠る小僧たちにはさしたる問題はないと、初めは特に気にも留めず、過ごしていたらしい。

 しかし、穴の出現が頻繁に起こり、しかも深さを調べるため覗き見れば、この世の果てほどもあるのだという。これはさすがに落ちてはひとたまりもない。どうにかならないかと思い、相談したのだという。

 果たして、聖徳太子が建てた霊験あらたかな寺で、あやかしたちは何かをしようと思うだろうか。

 僧侶の話を聞きながら、蒼が邪念を探ってみても、何も出てこない。


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