EGOISTIC狂愛デジャ・ビュ【静理編】
「白魔さんと出掛ける時は、いつも黒ヒョウだから…」
「白魔は運転を面倒がるからね」
他の兄弟達は電車を使うため、エンジン付きの車には乗らない。
それにしても、だ。
地下世界では自動車をほとんど見掛けない。
「ここではあんまり、自動車が走ってないですね」
「自動車は新しい乗り物なんだよ。ここには、地上で馬車が当たり前だった時代から存在する闇人達がゴロゴロいてね。彼らは馴染みのない最先端技術の結晶より古いものに安心や親しみを感じるらしいんだ」
だから多くの闇人が馬車に似せた黒ヒョウ車を好む。
慣れた様子でハンドルを握りアクセルを踏む静理は、変化の受け入れを拒む頭の固い連中が沢山いるこの地下世界にとって貴重な存在なのかもしれない。
「……小鳥ちゃん」
不意に静理の声が低く、真剣なものになった。
「なんですか?」
「今から行く場所は、闇市場……ダークマーケットと呼ばれる区域だ。無法地帯みたいな所だから俺から離れないでね。危ないよ」
「…はい」
危ないなら、なぜわざわざ自分を連れ出したのだろう。
そんな疑問を口に出すことを躊躇って、小鳥は自動車の窓から流れる街並みを見つめた。