EGOISTIC狂愛デジャ・ビュ【カロン編】
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電車に乗って治安がさほど悪くない高級住宅街へ戻って来た一行。
クラヴィエ家とはちょっと離れた場所にある枢戯家の屋敷へ訪れた小鳥は、その門をくぐりながら目を丸くした。
「す、ごい…」
「蜜莉の家とか久しぶりだけど、変わってないな」
二階建ての白い洋館。
屋敷が夜空に張り付いているクラヴィエ家に比べれば迫力はないが、ここには他のどの屋敷にもない「広い庭」がある。
「花がいっぱい…!とってもキレイですね」
赤やピンク、黄色や白といった色とりどりの花々が咲くヨーロッパ風の庭園。
基本的に地下世界では植物が育ちづらいことを知っている小鳥は、目を輝かせながらも首を傾げた。
「ミッつん、どうしてこんなにたくさんの花が咲くの?」
「ふふ、近くでよく見てごらん」
言われて、ピンク色の花に顔を近づけてみる。
そして気づいた。
薫りがしない。
「……もしかして、これ…」
「わかった?」
「造花…?」
「正解!この庭にある植物はね、全部造花。偽物なんだ」
「これ…全部…!?」
「金持ちじゃなきゃできない贅沢だよな」
カロンがボソリと呟いたのと紫音が玄関の扉を開けたのはほぼ同時だった。
「歓迎はしないよ。早く帰ってね」
「可愛くない紫音の言葉なんて聞き流して下さいな。さあ、我が家へどうぞ」
こうして全員が玄関ホールへ入っていった。