ある王国の物語。『白銀の騎士と王女 』
32話、当たり前の‥‥朝の出会い
「エルティーナ様、おはようございます」
「ナシル。おはよう! ぅーん 絶好調!!」
「昨日の王都散策は、楽しかったようですね。良うございました」
「楽しかったわよ!! 生まれて初めて!! っての経験をたくさんしたわ!!
ナシル、聞いて! 防波堤壁画の圧感さといったら。石よ! 石に彫り込まれているのよ! そうとは思えない髪の流れる様や服の皺まで、美しくって。はぁぁぁぁぁ〜素敵で素敵で…」
「エルティーナ様、朝の用意がございますので。口ではなく身体を動かして下さいませ」
ナシルにとって、エルティーナの奇行はいつもの事だ。興奮する彼女の言葉は最後まで聞かず、いや…言わせず、さらっと流す。
若草色に真っ白な可愛らしい花がふんだんに裾に刺繍されたドレスを、凄い早業でエルティーナに着せ付けていく。
しかしエルティーナも負けてはいない。まだまだ話すのだ。レオンの言う何かに憑かれているような興奮トーク。レオンなら怒るか手で口を塞ぎ止める。がナシルや侍女達がそれを出来るわけもなく。エルティーナの不思議興奮トークを聞く羽目になるのだ。
「ねえ。ねえ。ナシル、それでね、防波堤壁画では、お兄様とアレンが拝まれていて、二人とも変な顔してたのよ。ふふふ、ぷっ」
「…それは…お気の毒です。さぁさぁ、次はこちらにお掛けください、エルティーナ様」
「なんで気の毒なの?? 素敵じゃない! 綺麗じゃない! 美しいじゃない!!
お兄様とアレンが並んで、お話しをしていたのよ!
お洋服も同じ感じだったのでペアルックみたいで…。防波堤壁画を見学に来ていた女性の方々が、はぁーはぁーはぁー 言って愛でていらしたわ。流石、お兄様とアレンだわ!! ふん!!」
「「「……………」」」
ナシルの顔が、そしてエルティーナの侍女であるキーナ達の顔が、物凄く死んだ魚のような目になっていた……。
「…なによ。どうしてそんな顔をするの!!」
「エルティーナ様の純粋で汚れてない御心に、驚愕致します」
「キーナ… 褒められた気がしないわ」
「褒めておりません。呆れております」
「…むぅぅぅぅ………」
「エルティーナ様。怒った顔をされても、可愛らしいだけです。全く迫力も何もございませんので。
はい。仕上がりました!! まぁーこれは素敵ね!! キーナ、クキラ、見て!!」
「まぁ! 本当ね。斜めに編み込むのね。柔らかい髪のエルティーナ様には、もってこいね。ナシル様 いかがですか?」
「ええ。これなら、少し大きい宝石も編み込めそうね。これから採用致しましょう」
「ありがとうございます!!!」
エルティーナは静かに興奮していた。
背後からメーラルの自信に満ち溢れた声が聞こえる。
(「素敵な声だわ。元気が出るわ。髪結いで、メーラルの右に出る者はいないのよ。ふん。メーラルは天才なのよ!!」)
エルティーナは自分の事のように誇らしかった。気が大きくなり、思っていた事が口にでてしまう。
「ふん。当たり前よ! メーラルは器用だしセンスがあるのよ!!」
エルティーナのドヤ顔に皆、目が点。そのあとは、部屋の中が笑い声で満ちる。ナシルでさえ肩を震わして笑っている。
皆が何を笑ってるか、エルティーナには分からない。でも皆が楽しそうだから一緒に笑う。笑っているエルティーナをメーラルがふわっと抱きしめた…。
「エルティーナ様、愛しておりますわ」
メーラルの少し重い言葉。エルティーナはきょとんとして、満面の笑みで「私もメーラルを愛してるわ」そう伝える。
(「エルティーナ様の不思議な所。一緒にいると癒される……」)
いつまでも変わらずにいて欲しいと、メーラルは願わずにはおれなかった。
「エルティーナ様。朝食は自室にご用意しております」
「…ナシル、グラハの間で朝食をとらないって事は何かあるのよね?」
「はい。王からエルティーナ様に話があると…。公式に則り謁見の間で、エルティーナ様とお会いになるとの事です」
「…分かったわ」
晴れやかな朝も、少しだけ重く思えてしまう。
父からの話…一つしかない。フリゲルン伯爵との婚儀について…だろう。
わざわざ謁見の間で、という事はフリゲルン伯爵もいらっしゃると考えて間違いない。今日のこの凝ったドレスや髪型も…。
この王宮にいれるのも、あと僅かなのだ。フリゲルン伯爵の領地は王都からかなり離れていると聞く。
(「ふぅ…これが、マリッジブルーっていうのかしら……」)
エルティーナは、無言でテーブルに並ぶ果物やスープ、パンを食べていく。スープを飲んで…エルティーナは思う。
(「もう! アレンの特製スープの方が食べやすいわ。もっと、このジャガイモとか、小さく切ってくれたらいいのに! また、口の中を火傷したわ。ふんっ」)
心の中で悪態をつきながら、エルティーナの朝食は終わった。
エルティーナはもう一度、化粧を直され甘い香りの紅茶が出される。
「エルティーナ様。カモミールの香りはとても落ち着きますので」
「ありがとう。クキラ! クキラはとても植物に詳しいわね! 素敵だわ!!」
「ありがとうございます。エルティーナ様」
クキラと微笑み合っていると、ナシルの呼ぶ声が聞こえる。
「エルティーナ様。そろそろ時間でございます。アレン様は外でお待ちです」
「えっ!? いつから!? もう…言ってくれたらいいのに…。部屋の中で待っててくれたら良かったのに…」
「私もアレン様にそのようにお伝え致しましたが、かまわない。と断わられまして… 申し訳ございません」
「ごめんなさい! 謝らないでナシル。アレンは変な所 頑固だから、私こそ我が儘いってごめんなさい…」
エルティーナは、ゆっくりと立ち上がり、大好きなアレンの元へ歩いて行く。
昨日はいい事をしたから、きっとアレンも凄く喜んでくれている。
重厚なドアの前に着く。ナシルとクキラがドアを開けてくれる。
ドアの向こうには、エルティーナが幼い頃から想い続けるアレンがいる……。
当たり前に続く、この朝の出会いがあと何回続けていけるのか……。
大好きな人の顔を思い浮かべ感謝する。
アレンに出会えた事が…… 神様からエルティーナへの最高の贈り物……。
「アレン。お待たせしました!!」
「おはようございます。エルティーナ様」
エルティーナは満面の笑みで、アレンは包み込むような優しい微笑みで、二人は見つめ合う。
そして…また……恋に落ちた。
「ナシル。おはよう! ぅーん 絶好調!!」
「昨日の王都散策は、楽しかったようですね。良うございました」
「楽しかったわよ!! 生まれて初めて!! っての経験をたくさんしたわ!!
ナシル、聞いて! 防波堤壁画の圧感さといったら。石よ! 石に彫り込まれているのよ! そうとは思えない髪の流れる様や服の皺まで、美しくって。はぁぁぁぁぁ〜素敵で素敵で…」
「エルティーナ様、朝の用意がございますので。口ではなく身体を動かして下さいませ」
ナシルにとって、エルティーナの奇行はいつもの事だ。興奮する彼女の言葉は最後まで聞かず、いや…言わせず、さらっと流す。
若草色に真っ白な可愛らしい花がふんだんに裾に刺繍されたドレスを、凄い早業でエルティーナに着せ付けていく。
しかしエルティーナも負けてはいない。まだまだ話すのだ。レオンの言う何かに憑かれているような興奮トーク。レオンなら怒るか手で口を塞ぎ止める。がナシルや侍女達がそれを出来るわけもなく。エルティーナの不思議興奮トークを聞く羽目になるのだ。
「ねえ。ねえ。ナシル、それでね、防波堤壁画では、お兄様とアレンが拝まれていて、二人とも変な顔してたのよ。ふふふ、ぷっ」
「…それは…お気の毒です。さぁさぁ、次はこちらにお掛けください、エルティーナ様」
「なんで気の毒なの?? 素敵じゃない! 綺麗じゃない! 美しいじゃない!!
お兄様とアレンが並んで、お話しをしていたのよ!
お洋服も同じ感じだったのでペアルックみたいで…。防波堤壁画を見学に来ていた女性の方々が、はぁーはぁーはぁー 言って愛でていらしたわ。流石、お兄様とアレンだわ!! ふん!!」
「「「……………」」」
ナシルの顔が、そしてエルティーナの侍女であるキーナ達の顔が、物凄く死んだ魚のような目になっていた……。
「…なによ。どうしてそんな顔をするの!!」
「エルティーナ様の純粋で汚れてない御心に、驚愕致します」
「キーナ… 褒められた気がしないわ」
「褒めておりません。呆れております」
「…むぅぅぅぅ………」
「エルティーナ様。怒った顔をされても、可愛らしいだけです。全く迫力も何もございませんので。
はい。仕上がりました!! まぁーこれは素敵ね!! キーナ、クキラ、見て!!」
「まぁ! 本当ね。斜めに編み込むのね。柔らかい髪のエルティーナ様には、もってこいね。ナシル様 いかがですか?」
「ええ。これなら、少し大きい宝石も編み込めそうね。これから採用致しましょう」
「ありがとうございます!!!」
エルティーナは静かに興奮していた。
背後からメーラルの自信に満ち溢れた声が聞こえる。
(「素敵な声だわ。元気が出るわ。髪結いで、メーラルの右に出る者はいないのよ。ふん。メーラルは天才なのよ!!」)
エルティーナは自分の事のように誇らしかった。気が大きくなり、思っていた事が口にでてしまう。
「ふん。当たり前よ! メーラルは器用だしセンスがあるのよ!!」
エルティーナのドヤ顔に皆、目が点。そのあとは、部屋の中が笑い声で満ちる。ナシルでさえ肩を震わして笑っている。
皆が何を笑ってるか、エルティーナには分からない。でも皆が楽しそうだから一緒に笑う。笑っているエルティーナをメーラルがふわっと抱きしめた…。
「エルティーナ様、愛しておりますわ」
メーラルの少し重い言葉。エルティーナはきょとんとして、満面の笑みで「私もメーラルを愛してるわ」そう伝える。
(「エルティーナ様の不思議な所。一緒にいると癒される……」)
いつまでも変わらずにいて欲しいと、メーラルは願わずにはおれなかった。
「エルティーナ様。朝食は自室にご用意しております」
「…ナシル、グラハの間で朝食をとらないって事は何かあるのよね?」
「はい。王からエルティーナ様に話があると…。公式に則り謁見の間で、エルティーナ様とお会いになるとの事です」
「…分かったわ」
晴れやかな朝も、少しだけ重く思えてしまう。
父からの話…一つしかない。フリゲルン伯爵との婚儀について…だろう。
わざわざ謁見の間で、という事はフリゲルン伯爵もいらっしゃると考えて間違いない。今日のこの凝ったドレスや髪型も…。
この王宮にいれるのも、あと僅かなのだ。フリゲルン伯爵の領地は王都からかなり離れていると聞く。
(「ふぅ…これが、マリッジブルーっていうのかしら……」)
エルティーナは、無言でテーブルに並ぶ果物やスープ、パンを食べていく。スープを飲んで…エルティーナは思う。
(「もう! アレンの特製スープの方が食べやすいわ。もっと、このジャガイモとか、小さく切ってくれたらいいのに! また、口の中を火傷したわ。ふんっ」)
心の中で悪態をつきながら、エルティーナの朝食は終わった。
エルティーナはもう一度、化粧を直され甘い香りの紅茶が出される。
「エルティーナ様。カモミールの香りはとても落ち着きますので」
「ありがとう。クキラ! クキラはとても植物に詳しいわね! 素敵だわ!!」
「ありがとうございます。エルティーナ様」
クキラと微笑み合っていると、ナシルの呼ぶ声が聞こえる。
「エルティーナ様。そろそろ時間でございます。アレン様は外でお待ちです」
「えっ!? いつから!? もう…言ってくれたらいいのに…。部屋の中で待っててくれたら良かったのに…」
「私もアレン様にそのようにお伝え致しましたが、かまわない。と断わられまして… 申し訳ございません」
「ごめんなさい! 謝らないでナシル。アレンは変な所 頑固だから、私こそ我が儘いってごめんなさい…」
エルティーナは、ゆっくりと立ち上がり、大好きなアレンの元へ歩いて行く。
昨日はいい事をしたから、きっとアレンも凄く喜んでくれている。
重厚なドアの前に着く。ナシルとクキラがドアを開けてくれる。
ドアの向こうには、エルティーナが幼い頃から想い続けるアレンがいる……。
当たり前に続く、この朝の出会いがあと何回続けていけるのか……。
大好きな人の顔を思い浮かべ感謝する。
アレンに出会えた事が…… 神様からエルティーナへの最高の贈り物……。
「アレン。お待たせしました!!」
「おはようございます。エルティーナ様」
エルティーナは満面の笑みで、アレンは包み込むような優しい微笑みで、二人は見つめ合う。
そして…また……恋に落ちた。