ある王国の物語。『白銀の騎士と王女 』
「お待たせ、アレン!」
「お待たせ致しました、グリケット様」
「おはようございます。エルティーナ様」
「おはよう、ラズ」
四人は、朝食を取るためグラハの間に歩いて行く。
「ラズ。楽しかったかい? エルティーナを泣かせたりしてないかい?」
「もちろんですわ。一緒に手をつないで寝ました。子供みたいですけど、嬉しかったわ。人の体温は、私にとってとても安心します」
「そうか。では、これからは私が手をつないであげるよ、ラズ」
グリケットのいきなりの甘い言葉にラズは面食らう。その後「ありがとうございます」と笑う。
エルティーナはラズラの顔を今とても、綺麗だと思った。何故だかわからないが嬉しくてたまらなかった。
そんな嬉しそうなエルティーナをみて、アレンは優しく艶やかに微笑む。
「エルティーナ様も、楽しかったようで良かったですね」
「えっ! …あっ……楽しかったわ、もちろん!!」
たどたどしく答えるエルティーナに、アレンは疑問を感じ、そして先ほどからあまり瞳を合わせてくれない事に不安を感じる。
「……エルティーナ様?」
「な、何かしら」
「…何故…先ほどから目線をはずすのですか? 何か、私に……不満がおありですか?」
(「はぁぁぁぁ〜。エルティーナの馬鹿。こういう所が子供なのよね……。さっきの夢が恥ずかしいのだろうけど。貴女の恥ずかしい心内なんて、カスよカス。アレン様があまりにも可哀想でしょう。
エルティーナ、ごめんなさいね。私はアレン様の味方なのよ。こればっかりは、スルー出来ません。先に謝ります。ごめんね。バラします」)
「もう、エルティーナったら。昨夜に見た夢が恥ずかしいからって、そんな態度は駄目よ」
「っラズラ様!! な、何を言うんですかっ!!」
エルティーナはラズラがまだ、何も言ってないのに真っ赤である。
(「可哀想だけど、私は今だけ悪魔になるわ!ごめんなさいね。エルティーナ!!」)心の中でもう一度謝まる。
「…夢? …ですか?」
アレンの疑問の声を聞いて、ラズラは口にする。悪いと思いながらも、実はエルティーナの反応よりもアレン様の反応が見たい!! と邪道な事を考えていた。
「そうなんです。エルティーナったら、アレン様とエッチな事をしている夢を見たんですって! それで、アレン様の顔を見るのが恥ずかしいのよね?」
「っラズラ様ぁーーー!!!」
エルティーナは叫びながら、ラズラの口を塞ぐ。そして、訳のわからないことを叫んでいる。
(「嫌…塞いでも全て話した後だけど。やっぱり、エルティーナは馬鹿ね。まぁそこが可愛いんだけど」)
ラズラの口を塞いで、涙声で必死に叫んでいるエルティーナにはアレンは見えていない。
(「うおぉぉぁぁ〜 照れてるわ〜 嬉しそう〜 赤くなってる〜。硬質系美貌のアレン様でも照れるのね。肌の色が白い分、目立つわね。きゃ!!
いやぁ〜 いい事したわ。顔が緩むわ。エルティーナには悪いけど癖になりそう。本当にアレン様が嬉しそうだから。
…しかし…エルティーナは煩いわね。もう、これくらいはアレン様にサービスしてあげてよ。あんなに、嬉しそうな顔してるんだから見たらいいのに。まぁ 見れないか…。私に向かって叫んでいるものね…」)
「………えっ……(…今、なんて)…」
アレンは、ラズラが発した言葉を反芻する。口が緩むのを隠す為に手のひらで口もとを隠す。
喚いているエルティーナを見て、ラズラが冗談を言ったわけではないのが分かり、顔が熱くなる。エルティーナを見てられなくて、視線を外した。
(「やばい。これは嬉しすぎる。本当に嬉しいな。少しは異性として意識をしてくれているのか……? あぁ、エル様の反応が可愛らしすぎる」)
グリケットは今の状況に唖然としていた。見たこともない、アレンの照れまくっている表情と態度にまず驚き、ラズラになんか叫んでいるエルティーナの夢の内容に驚愕する。
エルティーナは、アレンの事を甘やかす父や兄のようにしか思っていないのだと感じていた。エルティーナの態度は、ずっと妹みたいだったからだ。アレンの事を異性として、男性として、見ていたなんて信じられない。
今までの態度は全て、演技だったのか!?純真無垢だと、思っていた姪はなかなかの狸だった……。
まだ何か叫んでいるエルティーナを茫然と眺める事しかできなかった、あまりにも衝撃的すぎて……。
「……エルティーナ様」
アレンの呼びかけにエルティーナは叫ぶのを止める。しかしラズラにしがみついていて、アレンの方を見ないし、返事もしない。
アレンは、エルティーナとラズラのすぐ横まで歩いていく。
革グローブに被われた大きな手をエルティーナの頬に添える……。そして男の色気がたっぷり入った声色で、エルティーナの瞳を見つめながらゆっくりと話し出す。
「……夢にまで、見て頂けるなんて光栄です…エルティーナ様に、早くお会いしたいな。という私の気持ちが見せた夢です……きっと。
…ご迷惑をおかけ致しまして、申し訳ございません」
アレンの甘く蠱惑的な声に、ラズラ、エルティーナ共に腰が抜けた。
グリケットは、ラズラを抱え、アレンは、エルティーナを抱える。魂が抜けている、エルティーナを柔らかく腕の中に拘束する。
「エルティーナ様、このまま抱いていきますね。早くグラハの間に行きましょう」
まだ続くアレンの甘い蠱惑的な声に、一言も発せないエルティーナ。
アレンのいつもより強く感じる甘い香りを身体に感じ軽く昇天していた。
「ラズ、君は本当に色々やらかすね」
「グリケット様、私、腰が抜ける経験は初めてですわ! アレン様の声はやばいですわ!」
「……ラズ……」
「…ごめんなさい。重くないですか?」
「重くないよ。見てはいけないものを見た気分だよ。本当に。はぁ〜 知りたくなかったよ……」
「グリケット様。純真無垢の子ほどエッチなんですよ!!」
「知りたくないよ。そんなこと……」
可愛い姪の女の部分を知って落ち込んでいるグリケットに、ラズラは腰が抜けて抱き上げられている状況を思いきり楽しんでいた。