ある王国の物語。『白銀の騎士と王女 』
「エル様、明日からまた違う学びが入っていると聞きましたが、それほど密に詰め込まなくとも、よろしいのではないでしょうか?」
「大丈夫よ。それに大切な授業だから。私は王女としての学びは受けてきたけど。女主人として屋敷をまわす、なんて事は全く分からないの。金銭、生活、使用人の扱い方、私は本当に何も知らないの……フリゲルン伯爵家に迷惑をかけないように頑張らなくちゃ!」
「左様でございますか」
二人は話さずに歩いている。もう少しでエルティーナの自室となる。あきらかにアレンの態度が違う……と感じてもそれがどうしてかは、エルティーナには分からない。
(「…アレン……えっと…声が怒ってる…? 気のせいかな。でも後少し。ヘアージュエリーを渡して! 護衛の件を話す! 頑張れ私!!」)
エルティーナが心の中で、自分自身にエールを送っている時、アレンはエルティーナの言動に傷ついていた。
(「私の態度は酷いな……どうあっても、エル様の口からフリゲルン伯爵の為に。というのが腹立たしく思う……エル様は私のものではないのは百も承知だが、私もまだまだだな……」)
アレンが自分の態度を反省していた時、エルティーナの声がアレンを呼ぶ。
「アレン………」
「何でしょうか? エル様」
「あのね……これアレンにプレゼント!」
「…これ…は………」
「ラズラ様に教えてもらった、ヘアージュエリーよ。ヘアージュエリーには意味があるんですって!! ラズラ様に教えてもらって……。
自分の髪で作るヘアージュエリーは身代わりとなるらしいの。アレンは強いし、今は他国と戦争している訳ではないから死と隣り合わせではないけど……。どんな時でもアレンを護ってくれますようにって思って作ったの!! もらって欲しい!!」
エルティーナは一気に言い切って、胸がドキドキしていた。
「………ありがとうございます……」
「どう致しまして!!」
「エル様……あの時お渡しした髪、全てこれに使われたのですか?」
「え、ええ、勿論よ。あの時びっくりして、普通に貰ったけど…やっぱり駄目だと思うのよ、ほら、流石にね!! それに、まわりの令嬢達が恐いから。アレンの髪で作ったヘアージュエリーなんて付けてたら、襲われそうだし!!」
「別に、身に付けなくても。飾っていたらいいのではないのですか?」
「いやいや、あのね、ヘアージュエリーは付けて初めて効果があるらしいの!! だから、置いておくなんて駄目よ!! アレンはあまりアクセサリーを付けないから嫌だった?」
「いえ!! そういう訳ではございません。有り難く頂戴いたします」
「うん!」
エルティーナは、ぐっと深呼吸をした。今から話す事は、辛いこと……。泣かないで話せるように、とびっきりの笑顔でお別れする!!
「アレン!! もう一つ話があるの!!」
「話…ですか?」
「アレン。今日で私の護衛は終了よ!! お父様にもお母様にも話は通しています。明日からは、ボルタージュの騎士に戻っていいわ。七年間ありがとうございます!!」
エルティーナは満面の笑顔でお礼を言い、頭を下げた。
(「笑顔で言えたわ!! やったわ!! アレンは喜んでくれるかしら!!」)
ドキドキしながら顔を上げる。
「……かしこまりました。エルティーナ様、それでは失礼致します」
(「えっ……それだけ………?…」)
エルティーナが思っていたのとは全く違う終わり方。遠くなるアレンの後ろ姿を見ながら、いないアレンに思いの丈をぶつける。
「待って、待ってよ、どうして、喜んでくれないの…
…アレンの嬉しそうな顔を見ることだけが、楽しみ…だった…のに…………どうしてなの…」