彼に惚れてはいけません
502号室に到着。
呼吸を整えながら、チャイムを押す。
映画で教わったこと。
玄関で出迎えられた時の女の子の表情って大事みたい。
とびっきりの笑顔がいいのか、ハニカミ系がいいのか。
ピンポーンという音を想像しながら押したので、ポロリン~というかわいい音に驚いた。
ガチャっとゆっくり開くドアの向こうから顔を出したのは、グレーのニット帽をかぶったお洒落男子だった。
いや、男子ではない。
おじさん?
そう言ってしまうには、もったいない。
「どうぞ。迷わなかった?」
「うん。大丈夫」
と上ずった声で答えて、玄関に通される。
私の表情は、とびっきりの笑顔でもハニカミ系でもなく、ド緊張だったろう。