彼に惚れてはいけません

「俺は、こんな風に女の子を抱いたことは初めて。全部お前が悪い。理性がきかなくなるなんて、俺の恥だな」

「そんなことない。自然にこうなったんだよ」

私は腰に触れる吉野さんの手を両手で包み込んだ。

「いろんなこと考えず、ただ由衣が欲しいって思った。動物的な一面を見せてしまったな。まぁ、由衣も動物そのものだったけど」

くくくと笑い、私の両手を握り返す。

「しびれたーーーー!」

と、腕枕の腕を抜き、両腕でガシっと私を抱きしめた。


「で、順番が逆になってしまいましたが、ちゃんと好きだったから。遅くなってごめん」

耳たぶに唇が当たり、大好きな声が脳に響く。

「俺は、幸せにできる自信はない。だけど、お前を傷つけたり裏切ったりはしないと誓える」

その言葉だけで十分だった。

不器用な吉野さんにここまで言わせちゃうなんて、私すごくない?


「私も、傷つけたり、裏切ったりしない」

「それは、聞き流しておく。そんな言葉、俺は信じないって言っただろ」

また冷めた口調でそんなことを言うので、私は首の後ろに手を回し、ぎゅっとくっついた。

「いいよ。そのままで。そのままの吉野さんが大好きだから」

素直な気持ちを伝えただけだったのに、首筋に何かを感じて、私はそれが吉野さんの涙なんだと気付いた。

気付かないフリをして、しばらくぎゅっと抱き合っていた。


泣いてるの?

そんなに嬉しかったの?

それとも、何か、辛いものを抱えてるの?



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