彼に惚れてはいけません

見つめ合う。

吉野さんの瞳の中にもまだ涙がにじんでいた。


「吉野さん、消えちゃわないでね」

「俺?消えないよ」

「なんだか、消えちゃいそう」

「ばか!」


大きな胸板に顔をくっつけると、涙がどんどん溢れた。


私の悪い癖。
映画の世界に引きずり込まれると、戻れなくなる。


私は、先週観た映画の話をして、涙のわけを話した。



「俺が、不治の病だと思ったの?」

「うん。だって、部屋綺麗だし、物が全然ないし」

「勝手に病気にすんなよ。確かに精神的には弱いけど、体は丈夫だよ。無責任なことは言えないけど、そこそこは長生きするつもりだよ」


それを聞いて、安心したと同時に、この部屋が綺麗過ぎる理由がまた気になった。



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