彼に惚れてはいけません


「女の人ってさ、思い出の物とか写真とか好きだろ?でも、それって、一生一緒にいられる相手との物じゃないと、かわいそうなんだよね。別に悪いことしたわけじゃないのに、捨てられる物達が、かわいそう」

物に対して、かわいそうだという気持ちを持っていることに感動した。

「辛い思い出に囲まれながら生活してみて、俺は思ったんだよ。物がなければこんなに悲しくないのになって。お揃いのカップとかお揃いのパジャマとか女の人は好きだけど、別れたらすぐ捨てる。俺はもったいないから使いたいと思う。でも、思い出す。だから、結局捨てないといけない」

自分の恋愛経験の少なさと浅さを痛感した。

そこまでの恋愛も、別れも私は知らない。

思い出に囲まれて暮らす辛さ…想像したこともなかった。


それも映画の中では経験済みだけど。

思い出のワイングラスを窓から投げたり、思い出の時計を海に投げたり。

それを観ていて、かわいそうだなんて感情はなかった。


「吉野さんは、優しいね」

「優しくないよ。優しい人は許せる人だと思う。俺は、全然まだ許せないし、前にも進んでいない」

核心に迫ってきた気がした。

その相手は、別れた奥さんのことだろうか。

随分前に別れたと聞いていたから、引きずっているとしたら、長すぎる。



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