彼に惚れてはいけません


「ずっと裏切られていたのは吉野さんなんだよ。かわいそうだよ」

遠い目をした吉野さんの脳裏には、どんな光景が浮かんでいるんだろう。


「最初は怒ったし、ショックだったしね。いろんな感情があった。でも、離婚を話し合っているうちに、だんだんよくわからなくなってきた。俺が悪いのかなって。心が壊れてたんだと思う。大好きな人ふたりに裏切られていた。しかも、10年以上も。そのことがどうしても理解できなかったし、許すっていうのもわからなかった」


10年間もの長い時間、裏切られるなんて、心が壊れるのは当然かもしれない。


「その時に、そばにいたかった」


ふと出た言葉に、吉野さんは困ったような表情をして、私をぎゅっと抱きしめた。


「信じるって言葉を、簡単に使うだろ、人は。でも、信じるってすごく覚悟がいる。裏切られても恨みませんっていう暗黙の了解というか。俺にはそう思えてしまう」


その言葉の意味がスッと入ってきたのは、私自身吉野さんに感じていることだから。


裏切られても恨みません、って本気で思ってる。

だから、信じたいって思う。

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