彼に惚れてはいけません
「奥さんとは連絡取ってるの?」
イチャイチャの合間に話す私達は、映画の中のふたりのようだった。
白いシーツにくるまれて、わらったり見つめあったり。
「子供とは、連絡取ってる。その友達と元嫁には何回も謝られて、許せたとは思わないけど、会いたくないから和解した。一緒に並んで謝る姿見てるとさ、本気でむなしくなる」
「その時、救ってくれたのがあのお店?」
鼻先をくっつけながら、頷いた吉野さん。
ひとりで頑張ったんだね。
その時、私がそばにいたかった。
何もできないけど、ひとりじゃないよって言ってあげたかった。
「でも、今の俺なら、あの経験も悪くないと思える。あんな経験なかなかできないし、心が壊れたけど、こうしてまた恋ができた」
すべてを打ち明けてくれた吉野さんは、殻を脱いだようにスッキリしているように感じる。
言葉が、ストレートで素直な気がする。
「恋、してくれたんだ」
「する気はないし、したつもりもないけど」
といじわるな顔をする。
くるまれたシーツの中で、耳元で囁く。
「でも、好きでもない女の子を抱く趣味はないから、好きってことかな」
気持ちが掴めないまま、近付いたり離れたり、突き放されたりしたけど、今はわかる。
全部全部、嘘じゃない。
吉野さんのすべてなんだって。
いじわるな吉野さんも、思わせぶりな吉野さんも、傷を癒しながら必死で私を愛してくれていたんだろうなって。