彼に惚れてはいけません

気持ちを落ち着けて、岡田社長の会社のドアをノックする。

「やあ、久しぶり」

あれ以来社長に会うのは初めてで、どういう顔をしていいのかわからなかった。

「また飲みにでも行こう」

と気さくに話しかけてくれて、ホッとした。


用意していた資料を渡し、担当者とお話をさせてもらって、30分程で終わった。


「失礼します」

と会社を出ると、そこに吉野さんが座っていた。

「あ、ど~も」

のんきな顔をして、私を見上げる。

「どうしたんですか?」

「いや、ちょっと顔でも見ようかなと思って」

何も考えていないように見えて、いろんなことを考えている人。

だから、わかる。
心配して様子を見に来てくれたってこと。

「弥生に、なんか言われたか?」

私達は、エレベーターに乗り、1階に下りる。


「弥生さんとこの後約束してるんです。連絡するってことになってて」

「で、敬語?」

「あ、ごめん。つい」

「今、弥生は接客中だから、まだ大丈夫だ。少し話そう」


1階のカフェに入り、コーヒーを飲む。


不安が消えていくのは、この柔らかい吉野さんの表情のおかげ。

目じりのしわ、やっぱり好き。


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