彼に惚れてはいけません
「あのさ、女の子ふたりが会って、何話すの?問題は俺じゃない?」
吉野さんは、コーヒーカップの中を見つめながら言った。
「うん。でも、どうしよう」
「弥生に、変な期待を持たせていた俺が悪い。由衣は何を言われても気にするな。俺が勝手にお前を選んだ」
ほろ苦い香りが届く。
吉野さんの匂い。
「吉野さんがいないとだめなんですって言ってた。弥生さん。すごく頼りにしてたんだよね、吉野さんのこと」
「アイツは俺がいなくても大丈夫だよ。だって、俺は弥生のそばにいた覚えはない。息子とはよく遊んだけど、弥生とは本当に何もない」
私は子供を産んだことはないけれど、弥生さんの立場なら、自分に優しくされるよりも嬉しかったんじゃないかな、息子さんのこと大事にされるって。
「息子さんからもらったんでしょ?猫のカバー。それは、大事なものだから、外さないでいいよ」
「由衣、お前優しいな。でも、俺が教えた通り、もっと心のままでいいんだから」
「心のままに言ってるの。弥生さんのことは不安だけど、息子さんと吉野さんの友情っていうか、それは大事なものだと思う」