彼に惚れてはいけません
「ありがとな。でも、もう今までみたいに会わないよ。会社に連れて来た時は、遊ぶけど」
弥生さんの息子さんにとって、吉野さんが特別な存在なのだとしたら、それを奪ってしまうのはかわいそう。
だけど・・・・・・これからもずっと仲良くされるのも辛い。
せめて、思い出のスマホカバーくらい、着けていていいんじゃないかなって。
私のせめてもの、気持ちであって、優しいわけじゃない。
「由衣と弥生がふたりで会うのもおかしいから、俺も同席しようか。今、呼ぶ?」
ふたりより、ずっと安心できる。
吉野さんがいてくれたら、私は強くなれる。
しばらくして、弥生さんがカフェに来た。
無言でコーヒーを飲みながら、数分間が過ぎた。
「なぁ、弥生」
吉野さんはうつむく弥生さんを覗きこむように声をかけた。
「あのさ、弥生。本当に俺じゃないとダメだった?俺じゃなくても、優しくてそばにいてくれる男なら良かったんじゃない?」
切り出したのは吉野さん。
ものすごく優しい声と話し方だった。
「どうして、そんな」
「いや、ごめん。責めるつもりはまったくない。ただ、俺はそう感じていたし、それだから今までいい関係でいられたんだと思う。楽な関係というか。弥生は俺の気持ちを探ることもなく束縛もせず、俺をどう思っているのかも知らない。俺は兄のような存在なんだと思ってる」
ふたりの間に今まで何があったんだろう。
少しは恋愛のもつれのようなことがあったのだろうか。