彼に惚れてはいけません
「私、吉野さんに甘えてたんです。毎日会社に来ると吉野さんがいて、息子の話を聞いてくれたり、相談に乗ってくれて。保育園のお迎えに間に合うようにフォローしてくれたりして、心の支えだった。でも、吉野さんの気持ちは全然わからなかった」
うつむく弥生さんは、涙を我慢するように唇を噛んだ。
「俺もよくわからないんだ。弥生の力になりたいとは思ってきた。でも、必要とされることが嬉しかったのかもしれない。いろんなことに傷付いてた俺は、誰かに必要とされて生きる意味を見つけていたんだろうな」
「私、吉野さんが必要です。でも、吉野さんに大切な人ができたのなら、これ以上助けてもらうわけにはいかない」
瞳の中の涙は落ちることなく瞳の中を漂っていて、とても綺麗だった。
弥生さんは、とても綺麗な人。
「信じたい、信じて欲しいって思ったのは由衣だった。由衣は全身で俺を愛してくれて、俺を信じてくれた。だから、俺も誠実に由衣だけと向き合おうと決めた」
私は何も言えずに、ただ吉野さんを見つめていた。