彼に惚れてはいけません
「吉野さんがふたりいればいいのに」
弥生さんがとても切ないことを言った。
「もし、俺がふたりいてもふたりとも由衣を選ぶよ」
吉野さんはコーヒーカップを置いて、息を吐く。
嬉しい言葉をもらったのに弥生さんの気持ちを思うと喜べなかった。
女性ひとりで息子さんを育てていく苦労や不安を私は知らない。
いろんな人に頼りたくなるのは当然かもしれない。
「誤解すんな。俺は消えるわけじゃない。お前の上司であることに変わりはないし、お前がこの仕事を続けていけるように協力するし、これからも働きやすい道を一緒に探そうと思ってる。他の女子社員も子供を産んだら辞めないといけないと思ってる。制度というか、社員の気持ちから変えていかないと・・・・・・って俺、何の話してるんだよな」
首をかしげて、照れる吉野さん。
「そういうところが吉野さんらしくて、好きです」
弥生さんが呟くように言った。
「あ、上司として、ですから」
と弥生さんは顔を赤らめた。