彼に惚れてはいけません
店を出て、タクシーを拾おうと大通りまで歩く。
「もうだめ。我慢できそうにないよ、俺」
腰に回された手が、強引に私を引き寄せた。
暗いとは言え、ここは外で、都会だ。
「だめだよっ」
と歩き出そうとするけど、強く抱きしめられた体は、もう吉野さんを求めていた。
オフィス街の中にある裏通りで、私達は本能のままに、キスをした。
「自分でも、どうしようもないくらい、俺変わった。由衣のせいだから」
舌を絡め合い、
首筋にキスをし、吐息が耳元を刺激する。
映画の中だけだと思っていたことが、どんどん現実になる。
大好きな人と、街中でキスをしている。
我慢ができないくらいに愛しくて、ひとつになりたいと思う。
大好きで、大好きで、守りたくて。
大切に大切に育てたい愛。
「吉野さん、好き」
「どれくらい?」
「世界で誰よりも好き」
「じゃあ、キスで教えて」
今から家に行くというのに、家に着く前にこんなことしちゃってる私達。
雲ひとつない夜空にくっきりと満月が浮かんでいた。
今日の吉野さんは、オオカミ男だね。